大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)68号 判決

原告 中塚和子 ほか二名

被告 荻窪税務署長

代理人 伴義聖 石黒邦夫 ほか二名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告中塚和子、同中塚正樹及び亡中塚昭子に対し昭和六〇年九月三〇日付けでした被相続人中塚ヒサの昭和五八年分所得税についての各更正及び各過少申告加算税賦課決定(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告中塚和子、同中塚正樹及び亡中塚昭子(以下「原告ら」という)。は、昭和五八年五月二〇日死亡した中塚ヒサ(以下「被相続人」という。)の子であり、被相続人の昭和五八年分所得税に係る原告らに対する課税処分等の経緯は別紙一記載のとおりである。

2  別紙一の昭和六〇年九月三〇日付け再更正・賦課決定欄記載の原告らに対する各更正(以下「本件各更正」という。)及び各過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの。以下「本件各賦課決定」という。)は、被相続人の所得を過大に認定し、また、原告らの承継すべき納付すべき税額のあん分を誤つた違法がある。

3  よつて、原告中塚和子、同中塚正樹及び同中塚史朗(以下「原告三名」という。)は、本件各更正及び本件各賦課決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認め、2、3は争う。

三  被告の主張

1  被相続人の昭和五八年分の所得金額

(一) 総所得金額 一二四万五一七四円

右金額は、別紙一記載の確定申告に係る不動産所得の金額である。

(二) 分離長期譲渡所得金額 一億一一二八円

(1) 譲渡収入金額 一億〇六三一万六九七六円

所得税法五九条一項一号は、法人に対する資産の遺贈があつた場合には、その者の譲渡所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により当該資産の譲渡があつたものとみなす旨規定しているところ、被相続人は、その所有に係る東京都杉並区上井草一丁目一二八番一、畑(現況宅地)、三四三平方メートル(実面積三四〇・〇五平方メートル)及び隣接する同所同番八、宅地、七四・二六平方メートルの各土地(以下併せて「本件土地」という。)を、同人が代表者をしていた有限会社柿木荘(以下「柿木荘」という。)に対して遺贈(以下「本件遺贈」という。)したので、本件遺贈により被相続人から柿木荘に対して本件土地の譲渡があつたものとして被相続人死亡時の本件土地の価額に相当する金額を算出すると、後記2のとおり一億〇六三一万六九七六円となる。

(2) 取得費 五三一万五八四八円

右金額は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)三一条の四(ただし昭和六三年法律第四号による改正前のもの)一項本文に基づき、右(1)の譲渡収入金額に一〇〇分の五を乗じて算出した金額である。

(3) 特別控除額 一〇〇万円

右金額は、措置法三一条(ただし昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)一項、三項に基づく金額である。

(4) 長期譲渡所得金額 一億一一二八円

右金額は、右(1)の譲渡収入金額から(2)の取得費及び(3)の特別控除額を控除した金額である。

2  本件土地の評価について

(一) 更地価額

所得税法五九条一項一号所定の「その時における価額」とは通常の取引価額と解するのが相当であるから、右価額を公示価格を基に算出すると、昭和五八年一月一日を基準日とする昭和五八年地価公示において本件土地の近隣地である東京都杉並区上井草二丁目七〇番七号所在の土地(以下「基準地」という。)が標準地の一つとされているので、基準地の更地としての一平方メートル当たりの公示価格三三万九〇〇〇円に、本件土地の昭和五八年分の一平方メートル当たりの固定資産税評価額八万一〇〇〇円を基準地のそれである九万円で除して得た割合である〇・九を乗じて本件土地の一平方メートル当たりの更地価額を算出すると、三〇万五一〇〇円となるから、これに本件土地の面積合計四一四・三一平方メートルを乗じて本件土地の自用地としての価額を算出すると、一億二六四〇万五九八一円となる。

(二) 減価要素

(1) 本件土地の利用状況

本件土地の地形は別紙二のとおりであり、そのうち、東京都杉並区上井草一丁目一二八番一の土地の東側二三〇・三一平方メートル(位置関係は別紙二記載のとおりである。以下「甲土地部分」という。)は柿木荘所有の鉄筋コンクリート造二階建共同住宅(以下「本件共同住宅」という。)の敷地として、西側の一〇九・七四平方メートル(位置関係は別紙二記載のとおりである。以下「乙土地部分」という。)は柿木荘所有の木造平家建住宅(以下「本件木造住宅」という。)の敷地としてそれぞれ利用され、また、同番八の土地七四・二六平方メートル(位置関係は別紙二記載のとおりである。以下「丙土地部分」という。)は、本件共同住宅の敷地の一部及び通路として利用されている。

(2) 甲土地部分

甲土地部分は本件共同住宅の敷地であるが、本件共同住宅はもと被相続人の所有であつたもので、柿木荘は昭和五七年五月に当時の本件共同住宅の固定資産税評価額七一七万九四〇〇円に一〇〇分の七〇の割合を乗じた五〇二万五五八〇円でこれを買い受け、同時に本件共同住宅の敷地部分について権利金等の授受なくして借地権(以下「本件借地権」という。)の設定を受けて、以後、本件遺贈を受けるまで月額二七万五〇〇〇円の地代を支払つて被相続人から賃借していた。

ところで、借地権の設定された土地の評価においては、借地権価額を控除するのが一般であるが、これに対応して、法人が権利金等の授受なくして借地権を取得した際には、法人税法二二条二項に基づき権利金相当額につき認定課税を行うのが原則である。しかし、当事者の一方又は双方が法人である場合において、当事者間の借地契約により、権利金の授受に代え、その使用の対価として、権利金の授受を伴う場合の地代よりも高額な、更地価格に対応する相当な地代を支払うこととしているときには、経済的観点からみれば、地主は右の相当な地代を収受することによつて当該土地の資本的活用を十分図ることができるのであるから、当該当事者間では、借地権部分に相当する経済的価値の借地人への移転はなく、更地価格と同様の価値が依然地主の許に残されていると考えることができる。そこで、このような場合には、借地権の価額を零と評価して、権利金相当額の認定課税を行わないこととする(法人税法施行令一三七条は法人が他人に借地権を設定して土地を使用させる場合について、この理を確認したものであるが、経済的合理性に基礎を置く法人税法の解釈上、この理は、法人が借地権の設定を受けた場合においても変わるところはない。)とともに、借地人が借地を譲り受けた場合においては、その価額は、当事者間で借地権価額に相当する経済的価値の移転がないため、自用地としての価額(更地価額)と評価されることになるものである。

柿木荘は、被告の調査に対し、本件借地権設定に際しては、本件共同住宅の賃貸収入を重視し、相当な地代として月額二七万五〇〇〇円を算定したものである旨の昭和五九年一〇月一八日付け申述書を提出したことなどから、被告は、本件借地権は相当な地代の支払があるものと認定し、税務上、本件借地権設定当時、柿木荘において資産計上すべき借地権の取得がなかつたものとしたので、甲土地部分は、更地として遺贈されたものとして評価すべきことになる。

したがつて、甲土地部分について自用地としての価額から借地権の価額を控除すべき理由はない。

(3) 乙土地部分

乙土地部分は、本件木造住宅の敷地であるが、本件木造住宅は本件遺贈前から受贈者である柿木荘の所有で柿木荘が第三者に賃貸していたもので、乙土地部分については従前から柿木荘が借地権を有していたものと認められるから、本件遺贈により柿木荘はいわゆる底地部分のみを取得したものというべきである。

そこで、右(一)において算出した本件土地の一平方メートル当たりの更地価額三〇万五一〇〇円に乙土地部分の面積一〇九・七四平方メートルを乗じ、借地権割合を六〇パーセントとして乙土地部分の借地権価額を算出すると、二〇〇八万九〇〇五円となり、右価額は自用地としての価額から控除すべきである。

(4) 丙土地部分の評価

丙土地部分は、甲土地部分及び乙土地部分と分筆されているものの、甲土地部分とともに本件共同住宅の敷地の一部及び通路として利用されてきたもので、甲土地部分と同様に評価すべきであり、自用地としての価額から減額すべき理由はない。

(三) 本件土地の価額

以上、本件土地の価額は、右(一)の自用地としての価額から右(二)の(3)の乙土地の借地権価額を控除した一億〇六三一万六九七六円と評価すべきである。

3  本件各更正の適法性

被相続人の昭和五八年分の総所得金額及び分離課税の長期譲渡所得金額は右1の(一)、(二)に述べたとおりであるから、納付すべき税額は二六一四万三一〇〇円となる。原告らの承継すべき納付税額は、国税通則法五条二項により相続分によることになるところ、本件では被相続人の子は七名で原告らの法定相続分は各七分の一であり、相続分の指定はないから、右の法定相続分によるあん分計算をすると、原告ら一人当たり各三七三万四七〇〇円(一〇〇円未満切り捨て)、三名合計で一一二〇万四一〇〇円となり、本件各更正はこれと同額であるから適法である。

4  本件各賦課決定の適法性

本件各賦課決定は、本件各更正による被相続人の納付すべき税額のうち、原告らが承継すべき税額(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切捨て)を基礎とし、同法六五条一項に基づき、右金額に一〇〇分の五の割合を乗じて過少申告加算税の額(同法一一九条四項に基づき一〇〇円未満の端数切捨て)を算出し、それぞれ賦課決定したものであるから、適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1(被相続人の昭和五八年分の所得金額)

のうち、(一)(総所得金額)は認める。

(二) (分離課税の長期譲渡所得金額)の(1)(譲渡収入金額)のうち、所得税法五九条一項が主張のとおり規定していること及び本件遺贈のあつたことは認め、その余は争う。(2)(取得費)は争う。(3)(特別控除額)は認める。(4)(長期譲渡所得金額)は争う。

2  同2(本件土地の評価)について

(一) (一)(更地価額)のうち、昭和五八年の基準地の公示価格及び固定資産税評価額並びに本件土地の固定資産税評価額は認め、その余は争う。

(二) (二)(減価要素)の(1)(本件土地の利用状況)は認める。

(2) (甲土地部分)のうち、甲土地部分が更地として遺贈されたものとして評価すべきことは争い、その余は認める。

(3) (乙土地部分)のうち、前段は認め、後段の価額の評価は争う。

(4) (丙土地部分)は争う。

3  同3(本件各更正の適法性)のうち、本件各更正の内容及び原告らの法定相続分については認め、相続分の指定がないこと及び本件各更正の適法性は争う。

4  同4(本件各賦課決定の適法性)は争う。

五  原告三名の反論

1  本件土地の評価方法

(一) 本件土地の評価は相続税の財産評価基準に従つて行うべきであるところ、本件申告は、正面路線価一平方メートル当たり一八万五〇〇〇円を基礎とし、本件土地の南側二七九・七一平方メートルについては奥行価格逓減率〇・九六を乗じ、甲土地部分及び乙土地部分が不整形地であること並びに乙土地部分東側及び丙土地部分北側には通路部分があることから本件土地全体について二〇パーセントの減額をし、さらに貸家建付地として本件土地全体について一八パーセントの減額(借地権割合六〇パーセント、借地権割合三〇パーセントとして計算)をして、本件土地全体の価額を四九二八万〇八四八円と算出したものである。

(二) 昭和四三年一〇月二八日直資三―一三の相続税財産評価に関する個別通達(相当な地代を収受している貸宅地の評価について)は、相当な地代を収受している貸宅地(宅地の所有者が借地権者にその借地権の目的となつている宅地を使用収益させている場合の宅地をいう。)は自用地としての価額から二〇パーセントを減額して評価すべきであるとしており、本件共同住宅の敷地部分はこれに該当するから、右(一)における貸家建付地としての一八パーセントの減価はその範囲内のものとして正当である。

(三) 昭和三九年四月二五日直資五六の相続税財産評価に関する基本通達二六(貸家建付地の評価)は、貸家建付地(宅地の所有者が建物を賃貸している場合の当該建物の敷地をいう。)は自用地としての価額から建物賃借人の建物賃借権に基づく建物の敷地に対する使用権の価額として一八パーセントの価額を控除すべきであるとしているところ、本件共同住宅は、柿木荘に譲渡される以前から柿木荘が旧所有者(当初は被相続人の夫であつた中塚繁太郎であり、同人死亡後は被相続人である。)から賃借して第三者へ転貸していたものであり、また、本件木造住宅は、本件遺贈前から柿木荘の所有で柿木荘が第三者に賃貸していたものであるから、本件土地は、相続税の財産評価基準に従い、少なくとも貸家建付地として自用地としての価額から一八パーセントの金額を控除した金額により評価すべきである。

2  遺留分減殺請求の効果

(一) 原告中塚和子及び亡中塚昭子は、昭和五八年中に柿木荘に対し本件遺贈について遺留分減殺請求をし、同年一二月二一日価額弁償として各五〇〇万円(計一〇〇〇万円)を柿木荘から受領した。

(二) 次いで、被相続人の子である塚中孝子も昭和五八年中に柿木荘に対し本件遺贈について遺留分減殺請求をし、昭和五九年五月一七日付けの契約に基づいて価額弁償として同月三一日に一〇〇〇万円を、同年九月二一日に二〇〇万円(計一二〇〇万円)を柿木荘から受領した。

(三) さらに、被相続人の子である中塚鐵也も昭和五八年中に柿木荘に対し本件遺贈について遺留分減殺請求をし、昭和五九年六月二二日に東京家庭裁判所において成立した調停において、価額弁償として一八〇〇万円を柿木荘から受領することになつた。

(四) 右(一)ないし(三)記載のとおり、柿木荘は遺留分権利者から遺留分減殺請求を受けて合計四〇〇〇万円の価額弁償をしたところ、本件遺贈は遺留分減殺請求によつて当該遺留分の限界で効力を失つて遺留分権利者が遺留分に相当する本件土地の持分を相続により取得し、柿木荘はこれを価額弁償により買い受けたものであり、本件遺贈により被相続人から柿木荘に移転したのは残余の持分にすぎないというべきである。

(五) 本件土地全体の価額は右1の(一)に述べたとおり四九二八万〇八四八円と評価すべきであるから、本件遺贈により移転した持分の価額は、右の四九二八万〇八四八円から価額弁償の合計額四〇〇〇万円を控除した九二八万〇八四八円と評価されるべきである。

3  相続分の指定

被相続人は、その遺言において、本件遺贈の外、残余の遺産全部を被相続人のうち原告中塚史朗及び中塚和朗の両名にのみ相続させるとしたから、右両名の相続分を各二分の一とする相続分の指定をしたというべきである。しかし、被相続人のうち中塚鐵也、中塚孝子、亡中塚昭子、原告中塚和子の四名が遺留分減殺請求権を行使した結果、右の指定相続分は遺留分の範囲で減少し、また、被相続人のうち原告中塚正樹は被相続人の生前に遺留分を放棄していたので、結局、七名の相続人の相続分は、原告中塚史朗と中塚和朗が各一四分の五、中塚鐵也、中塚孝子、亡中塚昭子、原告中塚和子が各一四分の一、原告中塚正樹が零となる。

被相続人の昭和五八年分所得税の国税通則法五条による承継割合は、右の相続分によるべきであるから、各七分の一の法定相続分によつた本件各更正及び本件各賦課決定は違法である。

六  原告三名の反論に対する被告の認否及び再反論

1  原告三名の反論1(本件土地の評価方法)について

(一) (一)は争う。

譲渡所得に対する課税は、資産の譲渡によつて資産が所有者の手を離れるのを機にその保有期間中の価値の増加益(キャピタルゲイン)を清算して課税するものであるのに対し、相続税は、相続等による財産の取得に担税力を認めて課税するものであつて、譲渡所得に対する課税とは対象、目的を異にするものであるから、譲渡所得の資産評価において相続税の財産評価基準によることは適当ではない。

(二) (二)のうち、貸宅地についての相続税の財産評価に関する個別通達の存在は認めるが、その余は争う。

仮に相続税の財産評価基準によるとしても、本件借地権設定当時、柿木荘には税務上資産計上すべき借地権はないとされたのであるから、第三者との間ではなく、借地契約の当事者間における本件遺贈において本件土地を貸宅地として評価することはできない。およそ借地契約を締結した土地所有者が後日借地人に当該土地を譲渡した場合、これを全体として経済的観点からみれば最終的には更地を譲渡したということに他ならないところ、当該借地契約時に借地権に経済的価値が認められれば、その時点で借地権価額が評価されて借地人に資産計上されるとともに、その後の借地の譲渡の際には、当該借地は更地価額から借地権価額を控除したいわゆる底地価額で評価されることになるが、当該借地契約において相当な地代を授受するものとされたことにより、借地権に経済的価値を認めず、借地人に借地権の資産計上がされない取扱いとされたときには、その後の借地の譲渡の際には、当該借地は更地として評価されることになるのであり、本件は、まさに後者の場合である。

(三) (三)のうち、貸家建付地についての相続税の財産評価に関する基本通達の存在、本件共同住宅は柿木荘に譲渡される以前から柿木荘が旧所有者から賃借して第三者へ転貸していたものであること、本件木造住宅は本件遺贈前から柿木荘の所有で柿木荘が第三者に賃貸していたものであることは認め、その余は争う。

仮に相続税の財産評価基準によるとしても、建物賃借人の敷地利用権は建物所有者から独立したものではなく、建物所有者の敷地利用権に従属したものであるところ、被告の主張2の(二)の(2)に述べたとおり、本件においては借地契約の当事者間では本件借地権の経済的価値はないものとされたのであるから、本件共同住宅の賃借人の敷地利用権の経済的価値も、借地契約の当事者間においてはないものとして取り扱われるべきである。また、本件共同住宅は、被相続人の生前に柿木荘へ譲渡される以前から、柿木荘が旧所有者から賃借してこれを借家人に転貸していたものであり、また、本件木造住宅は本件遺贈前から柿木荘の所有で柿木荘が第三者に賃貸していたものであるから、借家人の存在による敷地部分に対する何らかの制約は、柿木荘自身の選択によつたものであり、本件土地の価額の評価において減価要素として斟酌すべきではない。

2  同2(遺留分減殺請求の効果)の(一)ないし(三)は認め、(四)、(五)は争う。

譲渡所有の基本的な考え方は、当該資産の所有者に帰属する増加益を課税の対象とし、当該資産が所有者の支配を離れる都度それまでに生じた増加益を精算して課税するというものであるところ、所得税法五九条一項一号は、前述のとおり、法人に対する資産の遺贈があつた場合には、その者の譲渡所有の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額より当該資産の譲渡があつたものとみなす旨規定している。しかして、本件遺贈に対する遺留分減殺請求について、柿木荘は本件土地の一部を返還することによりこれに応じたわけではなく、価額弁償によつてこれを免れたのであるから、結局、本件遺贈により本件土地が被相続人から柿木荘に移転した事実には何ら変動はなく、本件遺贈による本件土地に係る被相続人の譲渡所得には影響がないと解すべきである。

原告三名は、遺留分減殺請求権の行使によつて直ちに課税関係に変動を生じるものとしているが、遺留分減殺請求があつても、受遺者は目的物を返還するか、価額弁償によりこれを免れるかを選択することができ、その実行がされるまでは遺留分権利者の権利は具体的には確定しないのであるから、この時点で課税関係に変動を生じたものと考えるのは適当ではない。価額弁償がされた場合にはその時点で遺留分権利者は当該価額弁償金を相続により取得したものとし、これに対し、遺贈の目的物の全部又は一部の返還を受けることになつた場合には、当該目的物の全部又は一部について、遺留分権利者が相続により取得したものとする一方、遺贈による譲渡はなかつたものとして、所得税法一五二条、同法施行令二七四条二号に基づき、被相続人の譲渡所得に対する課税については更正の請求ができるものと解すべきである。

なお、被相続人に対する本件土地の譲渡所得の税額は、被相続人の相続税額の計算上債務として控除されることになつている。

3  相続分の指定

国税通則法五条の相続分の指定とは、遺言等によつて相続人の相続分が一定の割合をもつて表示された場合をいうと解すべきであり、特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がされたような場合に、当該特定の財産の価額を評価したうえで、その価額の相続財産全体の価額に対する割合を相続分として、これを相続分の指定と解することは、課税庁等の財産評価行為によつて相続分の指定割合が左右されることになりかねず、同条の予定するところではないというべきである。これを本件についてみると、本件遺言は、本件遺贈の外、杉並区上井草一丁目七六番の畑を中塚和朗に相続させ、同所七七番の宅地と同所八一番三の宅地及びその余の一切の財産を中塚史朗に相続させるというものであつて、遺贈又は遺産分割方法の指定にほかならず、原告三名の主張するように右両名について各二分の一の相続分の指定をしたものとは到底解されないから、原告三名の主張は失当である。

第三証拠<略>

理由

一  本件課税処分等の経緯

請求原因1(本件課税処分等の経緯)の事実は当事者間に争いがない。

二  本件各更正の取消請求について

1  当事者間に争いがない事実

被告の主張1(被相続人の昭和五八年分の所得金額)の(一)(総所得金額)の事実、(二)(分離長期譲渡所得金額)の(1)(譲渡収入金額)のうち、所得税法五九条一項が被告の主張のとおり規定していること及び本件遺贈があつたこと、(3)(特別控除額)の事実は当事者間に争いがない。

2  本件土地の評価

(一)  本件土地の自用地としての価額

本件土地の自用地としての価額の評価について、被告は、昭和五八年一月一日を基準日とする昭和五八年地価公示における本件土地の近隣地である基準地の更地としての一平方メートル当たりの公示価格三三万九〇〇〇円に、本件土地の昭和五八年分の一平方メートル当たりの固定資産税評価額八万一〇〇〇円を基準地のそれである九万円(右の基準地公示価格並びに本件土地及び基準地の固定資産税評価額についてはいずれも当事者間に争いがない。)で除して得た割合である〇・九を乗じて本件土地の一平方メートル当たりの更地価額を三〇万五一〇〇円と算出し、これに本件土地の面積四一四・三一平方メートルを乗じて得た一億二六四〇万五九八一円であると主張する。

所得税法五九条一項一号所定の「その時における価額」とは通常の取引価額と解されるところ、地価公示法に基づき公示される地価(公示価格)は、都市及びその周辺の地域等について自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる一平方メートル当たりの価格とされており(同法一条、二条参照)、実際にも時価に近いものであるが、通常は、標準地の時価をある程度下回るものであり、その意味で控え目な評価であるとされていることは公知の事実であり、<証拠略>によれば、この点は本件土地についても妥当するものであることが窺われる。

したがつて、基準地の公示価格及び固定資産税評価額並びに本件土地の固定資産税評価額により本件土地の公示価格相当額を算出するという右の被告主張の方法は、一応の合理性を有するものというべきであり、これによつて算出された右の被告主張の価額は特段の事情のない限り本件土地の通常の取引価額を上回ることのないものということができるところ、右の特段の事情の主張、立証はないから、本件土地の自用地としての価額は被告主張のとおり一億二六四〇万五九八一円とみることができる。

これに対し、原告三名は、本件土地の評価に当たつては相続財産の評価方法によるべきであると主張している。しかし、相続税の財産評価における基本通達において市街地の宅地の評価の際の基準とされている路線価は、取引によらない偶発的な課税原因から生じる相続税の性格等に照らし、公示価格の七〇パーセント程度の評価を目標として算定されているものであることは公知の事実であるところ、譲渡所得に対する課税は、資産の譲渡によつて資産が所有者の手を離れるのを機にその保有期間中の価値の増加益(キャピタルゲイン)を清算して課税するものであるのに対し、相続税は、相続等による財産の取得に担税力を認めて課税するものであつて、譲渡所得に対する課税とは対象、目的を異にするものであるから、譲渡所得の資産評価において相続税の財産評価基準によることは適当ではない。

(二)  減価要素

そこで次に、右(一)の本件土地の自用地としての価額から、本件土地の評価に当たり減価要素として考慮すべき事由について検討するに、本件土地の地形が別紙二のとおりであり、そのうち、甲土地部分は本件共同住宅の敷地として、乙土地部分は本件木造住宅の敷地としてそれぞれ利用され、また、丙土地部分は本件共同住宅の敷地と一部及び通路として利用されていることは当事者間に争いがないので、以下、右の各土地部分ごとの減価要素及び本件申告でのその他の減価要素の当否について順に検討する。

(1) 甲土地部分

ア 甲土地部分は本件共同住宅の敷地であるが、本件共同住宅はもと被相続人の所有であつたもので、柿木荘は昭和五七年五月にこれを買い受け、同時にその敷地部分について権利金等の授受なくして本件借地権の設定を受けて、以後、本件遺贈を受けるまで月額二七万五〇〇〇円の地代を支払つて被相続人から賃借していたが、本件借地権は、その設定当時、相当な地代の支払があるものとして柿木荘には資産計上すべき借地権の取得はなかつたものとされたことは当事者間に争いがない。

イ ところで、借地権の設定された土地の評価においては、借地権価額を控除するのが原則であるから、本件でも甲土地の自用地としての価額から本件借地権の価額を控除すべきかどうかが問題となる。

しかして、右のように借地権の設定された土地の評価において、借地権価額を控除するのは、借地法により借地人の地位が厚く保護される結果、経済的には、借地人は相当の価値を有する借地権を取得することになる反面、当該借地の価額はいわゆる底地価額にまで下落するといつた、地主から借地人に対し当該土地のうち借地権部分に相当する経済的価値の移転があつたと見るべき経済的実感が存在するからであるが、かかる経済的実態を反映して、借地権を設定する場合には、借地権部分に相当する経済的価値の移転の対価というべき権利金その他の金銭を授受することが広く行われていることは公知の事実であり、したがつて、かかる慣行が存在するにもかかわらず、法人が権利金等の授受なくして借地権を取得した際には、法人税法二二条二項に基づき権利金相当額につき認定課税を行うのが原則である。

しかしながら、当事者の一方又は双方が法人である場合において、当事者間の借地契約により、権利金等の授受に代えて、権利金の授受を伴う場合の地代よりも高額な、当該土地の自用地(更地)としての経済的価値との比較において相当な地代を支払うものとされているとすれば、経済的には、当該地代の資本還元額が当該土地の自用地としての価額と同等となるから、地主の許に当該土地の自用地としての価額がそのまま残されていて、借地人に対する借地権部分に相当する経済的価値の移転はなかつたものと見ることができる。したがつて、このような場合には、税務上、当該土地の借地契約は、権利金等の授受がなくとも、正常な取引条件でされたものというべきであり、借地人が法人である場合においても資産計上すべき借地権の取得はなかつたものとして、右の認定課税を行うべきでないことになる。なお、法人税法施行令一三七条は、法人が他人に借地権等を設定して土地を使用させる場合について、右のことを定めた規定であり、逆に法人が借地権の設定を受ける場合については、格別の規定は存在しないが、法人税法上、法人が借地権の設定を受ける場合についてもその扱いを異にすべき理由はなく、同様に右の理由が妥当するものと解すべきである。

しかして、柿木荘が本件共同住宅の敷地である甲土地部分について権利金等の授受なくして本件借地権の設定を受けたこと及び本件借地権は、その設定当時、相当な地代の支払いがあるものとして、税務上資産計上すべき借地権の取得はなかつたものとされたことは、右アのとおりであるところ、このように、税務上資産計上すべき借地権の取得はないとされた土地を地主が借地人に譲渡した場合には、第三者との間で成立する通常の取引価額とは異なり、その価額は更地価額によるべきことになるのは当然であるから、甲土地部分の譲渡に際しての通常の取引価額の算定に当たつて本件借地権の価額を自用地としての価額から控除すべきではない。

これに対し、原告三名は、本件共同住宅の敷地部分は、相当な地代を収受している貸宅地の評価についての相続税の財産評価に関する個別通達に従い、自用地としての価額から二〇パーセントに相当する金額を控除した金額により評価すべきであるから、本件申告における一八パーセントの減価はその範囲内のものとして正当であると主張している。

しかし、仮に右の個別通達の評価方法が所得税の財産評価においても基本的に妥当するものだとしても、右の個別通達は第三者による利用制限を減価事由として考慮したものであつて、本件遺贈のような借地契約の当事者間での当該土地の譲渡には妥当しないものであるから、原告三名の右主張は失当である。

ウ また、原告三名は、甲土地を含む本件共同住宅の敷地部分は、相続税の財産評価に関する基本通達に従い、貸家建付地として自用地としての価額から一八パーセントに相当する金額を控除した金額により評価すべきであるとも主張している。

しかし、仮に右の基本通達の評価方法が所得税の財産評価においても基本的に妥当するものだとしても、右の基本通達は、借家人による敷地の利用制限を減価事由として考慮したものであり、また、借家人の敷地利用権は建物所有者の敷地利用権に従属したものであるところ、本件においては借地契約の当事者間では本件借地権の経済的価値はないものとされたのであるから、本件共同住宅の賃借人の敷地利用権の経済的価値も、借地契約の当事者間においてはないものとして取り扱うべきである。また、本件共同住宅は、柿木荘がその旧所有者である被相続人から譲り受けたものであるが、その譲受以前から被相続人から賃借して借家人に転貸していたものであることは当事者間に争いがないから、本件共同住宅の借家人の存在による本件土地の利用に対する何らかの制約は柿木荘自身の選択によつたものというべきであり、減価要素として斟酌すべきではない。したがつて、原告三名の右主張も失当である。

(2) 乙土地部分

乙土地部分が本件木造住宅の敷地であり、従前から柿木荘が借地権を有していたものであることは当事者間に争いがないから、本件遺贈により柿木荘はいわゆる底地部分のみを取得したことになり、乙土地部分の取得価額の算定に当たつては借地権の価額を控除すべきであるところ、借地権割合については、特段の事情について主張、立証のない本件においては六〇パーセントとみるのが相当である。

そこで、右(一)において算出した本件土地の一平方メートル当たりの更地価額三〇万五一〇〇円に乙土地部分の面積一〇九・七四平方メートルを乗じ、借地権割合を右に述べたとおり六〇パーセントとして乙土地部分の借地権価額を算出すると、二〇〇八万九〇〇五円となるから、右価額を乙土地部分の自用地としての価額から控除すべきである。

これに対し、原告三名は、乙土地部分についても貸家建付地として一八パーセントを控除した価額により評価すべきであると主張するが、前記の基本通達は宅地の所有者が建物を賃貸している場合の当該建物の敷地の価額の評価に関するものであるところ、本件木造住宅が本件遺贈前から受贈者である柿木荘の所有で柿木荘が自ら第三者に賃貸していたものであることは当事者間に争いがなく、右通達の予定する場合ではないことが明らかであるから、原告三名の右主張は失当である。

(3) 丙土地部分

丙土地部分が甲土地部分とともに本件共同住宅の敷地の一部及び通路として利用されてきたことは当事者間に争いがないところ、そのうち本件共同住宅の敷地部分については甲土地部分と同様に評価すべきである。また、通路部分についても、一般に通路ないし道路であることを理由とする減価は第三者による利用制限を考慮したものであるところ、弁論の全趣旨によれば、本件ではその通行者は本件土地及び丙土地部分の西側隣地上の柿木荘所有の貸家住宅の居住者等であり、本件土地及び丙土地部分の西側隣地を最有効利用するために通路とされているにすぎないことが認められるから、通路ないし道路として評価上価値を減ずべき理由はない。

(4) その他の本件申告での減価要素の当否

原告三名は、本件申告において、本件土地の一部について奥行価格逓減率を乗じて評価したものと主張するが、本件土地の評価に当たり路線価方式によるべきではないことは右(一)に判示したとおりであるところ、奥行価格逓減は路線価方式が路線に面する標準的な画地を有する宅地の価額(路線価)を基として評価する方式であることによる評価の修正であるから、本件ではその適用の前提を欠くものである。そして、<証拠略>によれば、本件土地の奥行きが、その間口に比し、若干長いことが認められるが、これまでに述べた本件土地の利用状況及び右(一)に認定の自用地としての価額が控え目のものであることを勘案すると、右事実はこれを減価要素とするまでもない。

また、原告三名は、本件申告において、甲土地部分及び乙土地部分を不整形地として評価したものと主張するが、本件土地と各隣地又は道路との境界はいずれも整然と画されており、その利用に不都合を来すような不整形地とは認められず、このことは、現に柿木荘が貸家建物の敷地として有効に活用している状況からも明らかであるから、右評価も採用することができない。

さらに、原告三名は、本件申告において、乙土地部分の東側についても通路として減価して評価したものと主張するが、弁論の全趣旨によれば、丙土地部分と同様、その通行者は柿木荘所有の貸家住宅の居住者等であり、本件土地を最有効利用するために通路とされているにすぎないことが認められるから、通路ないし道路として評価上価値を減ずべき理由はない。

(三)  遺留分減殺請求の効果

原告三名の反論2(遺留分減殺請求の効果)の(一)ないし(三)は当事者間に争いがないところ、原告三名は、本件遺贈は原告中塚和子外の遺留分減殺請求により遺留分の限度で効力を失つて、遺留分権利者が遺留分に相当する本件土地の持分を相続により取得し、柿木荘は、これを価額弁償によつて買い受けたものであり、本件遺贈により被相続人から柿木荘に移転したのは残余の持分だけであると主張する。

しかし、譲渡所得においては、当該資産の所有者に帰属する増加益を課税の対象とし、当該資産が所有者の支配を離れる都度それまでに生じた増加益を精算して課税するというものであるところ、所得税法五九条一項一号は、法人に対する資産の遺贈があつた場合には、その者の譲渡所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により当該資産の譲渡があつたものとみなす旨規定しているので、本件では、その遺贈により被相続人から柿木荘に対して本件土地の譲渡があつたものとして譲渡所得税を課することになる。そして、本件遺贈に対する遺留分減殺請求については、柿木荘は本件土地の一部を返還することによりこれに応じたわけではなく、価額弁償によつてこれを免れたのであるから、結局、遺留分減殺請求によつても本件遺贈により本件土地が被相続人から柿木荘に譲渡された事実には何ら変動はなく、本件遺贈による本件土地に係る被相続人の譲渡所得には影響がないというべきである。

原告三名は、遺留分減殺請求権の行使によつて直ちに課税関係に変動を生じるものとしているが、遺留分減殺請求があつても、受遺者は目的物を返還するか、価額弁償によりこれを免れるかを選択することができ、その実行がされるまでは遺留分権利者の権利は具体的には確定しないのであるから、少なくとも課税上は、遺留分減殺請求権の行使の意思表示があつた時点で直ちに権利関係に変動を生じたものと考えるのは適当ではない。価額弁償がされた場合にはその時点で遺留分権利者は当該価額弁償金を相続により取得したものとし、これに対し、遺贈の目的物の全部又は一部の返還を受けることになつた場合には、当該目的物の全部又は一部について、遺留分権利者が相続により取得したものとする一方、遺贈による譲渡はなかつたものとして、被相続人の譲渡所得税については所得税法一五二条、同法施行令二七四条二号に基づき更正の請求ができるものと解すべきである。したがつて、原告三名の右主張は採用することができない。

3  長期譲渡所得金額

本件土地の本件遺贈時の価額は、右2の(一)に述べた自用地としての価額一億二六四〇万五九八一円から右2の(二)に述べた乙土地部分の借地権価額二〇〇八万九〇〇五円を控除した一億〇六三一万六九七六円と評価すべきであるから、被相続人の本件遺贈に係る長期譲渡所得金額は、右価額を譲渡収入金額とし、これから措置法三一条の四(ただし昭和六三年法律第四号による改正前のもの)一項本文に基づいて右譲渡収入金額に一〇〇分の五を乗じて算出した取得費の額五三一万五八四八円及び右1の特別控除額一〇〇万円を控除した一億一一二八円となる。

4  相続分

国税通則法五条は、相続があつた場合には、相続人は被相続人に課されるべき国税を納める義務を承継し、相続人が二人以上あるときは各相続人が承継すべき国税の額は、当該国税の額を民法九〇〇条から九〇二条までの規定による相続分によりあん分して計算した額とすると規定しているところ、原告三名は、被相続人は、その遺言において、本件遺贈の外、残余の遺産全部を被相続人のうち原告中塚史朗及び中塚和朗の両名にのみ相続させるとしたから、右両名の相続分を各二分の一とする相続分の指定をしたものであるとして、これを前提とした上で更に遺留分減殺請求により修正された相続分に基づくあん分計算をすべきであると主張する。

しかし、相続分の指定とは、遺言等により遺産全体に対する分数的割合をもつて相続人の相続分が表示されている場合をいうと解すべきであるところ、<証拠略>によれば被相続人の遺言は、公正証書によるもので、本件遺贈の外、杉並区上井草一丁目七六番の畑を中塚和朗に相続させ、同所七七番の宅地と同所八一番三の宅地及びその余の一切の財産を原告中塚史朗に相続させるというものであることが認められるから、これは遺贈又は遺産分割方法の指定にほかならないものというべきであり、原告らの主張するように右両名について各二分の一の相続分の指定をしたものとは到底解されない。

したがつて、原告三名の主張は前提を欠くものであるから失当であり、本件において原告らの承継すべき国税の額は、民法九〇〇条の法定相続分によるべきであるところ、原告らの法定相続分が各七分の一であることは当事者間に争いがない。

5  本件各更正及び本件各賦課決定の適法性

被相続人の昭和五八年分の総所得金額が一二四万五一七四円であることは右1のとおりであり、また、被相続人の本件遺贈に係る長期譲渡所得金額が一億一一二八円であることは右3のとおりであつて、右各所得に係る被相続人の昭和五八年分所得税の納付すべき税額は二六一四万三一〇〇円となるところ、本件において、原告らが右納付すべき税額をそれぞれ七分の一の割合によつて承継すべきことは右4のとおりであり、その額は原告ら一人当り各三七三万四七〇〇円(国税通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数切捨て)、原告ら三名合計で一一二〇万四一〇〇円であるから、これと同額の本件各更正は適法であり、これを前提とする本件各賦課決定も適法である。

三  以上によれば、原告三名の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木康之 石原直樹 佐藤道明)

別紙一

本件課税処分の経緯

(単位 円)

区分

年月日

総所得金額

分離長期譲渡所得の金題

納付すべき税額

過少申告加算税額

原告らの承継すべき納付税額

(合計)

原告らの過少申告加算税

(合計)

確定申告

五八・九・一九

一、二四五、一七四

三六、三一六、九五〇

七、三三五、八〇〇

七三三、五〇〇

更正の請求

五九・六・三〇

一、二四五、一七四

七、八一六、九五〇

一、六三五、八〇〇

一六三、四〇〇

更正をすべき理由がない旨の通知

六〇・二・二三

第一次

異議申立

六〇・四・二〇

一、二四五、一七四

七、八一六、九五〇

一、六三五、八〇〇

一六三、四〇〇

更正・賦課決定

六〇・四・三〇

一、二四五、一七四

一〇〇、〇〇一、一二八

二六、一四三、一〇〇

九四〇、三〇〇

八、七九三、六〇〇

四〇二、九〇〇

第二次

異議申立

六〇・六・二九

一、二四五、一七四

七、八一六、九五〇

一、六三五、八〇〇

一六三、四〇〇

区分

年月日

総所得金額

分離長期譲渡所得の金額

納付すべき税額

過少申告加算税額

原告らの承継すべき納付税額

(合計)

原告らの過少申告加算税

(合計)

異議申立の併合

六〇・七・一九

異議決定

六〇・七・二〇

棄却

再更正・賦課決定

六〇・九・三〇

一、二四五、一七四

一〇〇、〇〇一、一二八

二六、一四三、一〇〇

九四〇、三〇〇

一一、二〇四、一〇〇

五二二、五〇〇

第三次

異議申立

六〇・一一・二七

一、二四五、一七四

七、八一六・九五〇

一、六三五、八〇〇

一六三、四〇〇

右決定

六一・二・二〇

棄却

審査請求

六一・三・二〇

一、二四五、一七四

七、八一六、九五〇

一、六三五、八〇〇

一六三、四〇〇

審査請求についてのあわせ審理の通知

六一・一一・一四

裁決

六二・三・一七

一、二四五、一七四

一〇〇、〇〇一、一二八

二六、一四三、一〇〇

九四〇、三〇〇

一一、二〇四、一〇〇

五二一、四〇〇

別紙二 本件土地の位置関係の略図〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例